日本福音ルーテル市川教会

日本福音ルーテル市川教会会堂は、ウィリアム・メレル・ヴォーリスの設計で昭和30年(1955)につくられ竣工しました。平成20年(2008)には文化財的価値が認められ国の登録有形文化財として指定を受けました。築後50年を経て修理が必要な時期に入っていたところに、平成23年(2011)の東日本大震災による被害もあり、また市川真間川沿いの軟弱な地盤という立地から、同年11月より杭工事、基礎工事および壁の構造補強工事などの修理工事が行われた。
途中思いがけない蟻害の被害により塔屋部分の全解体が必要になりました。教会の信徒さんや施工の岩瀬建築の職人さんと話し合いを重ね、平成24年(2012)10月末完成しました。

平成23年2月8日の伊郷さんの文章

日本福音ルーテル市川教会の修理工事について

ウィリアム・メレル・ヴォーリスの設計で昭和30年(1955)につくられた市川教会はその文化財的価値が認められ2008年に国の登録有形文化財になりました。市川教会は今年で56歳になります。木造の建築では手を入れて修理を行う年齢になってきていると考えられます。人間の健康と同じように、SOSの発信が聞こえたら、その原因を突き止める適切な処置をとることが必要です。教会の床の不陸などはその例でしょう。以下、伝統技法研究会では市川教会の健康診断を行い、カルテをつくり、修理設計を始めました。以下にその結果をお知らせします。

  • 不動沈下

建物は地盤へ力を伝えて、倒れないように踏ん張っています。市川教会の力を受ける地盤は大変軟弱です。真間川に接する立地でもあり、今後、地盤沈下の可能性も大きいのです。これまでにも護岸陥没事故がおこるなど、地盤は不安定です。すでに建物周囲の地盤は沈下し、建物全体に不同沈下が見られ、内外観にも亀裂を確認できます。建物を今後、長期に渡り保存活用するためには、表土の下の固い地盤まで力を伝え、建物を構造補強する必要があります。

  • 杭工事

いくつかの方法がありますが、その中で鋼管パイプを中間支持層まで差し込む方法を提案します。支持力のある層(ここでは6m~9m)まで杭を入れ、長期にわたり、安定して構造物を支えることを考えました。鋼管杭を溶接を行いながら圧入し、沈下修正を行うアンダーピニングという工法です。直径12cm~15㎝程度の鋼管杭を、建物を曳いたり揚げたりしないで中間支持層まで圧入します。

  • 基礎工事

木軸の荷重は、基礎により、杭を経て地盤に伝えていきます。現在の基礎は構造クラックがあり信頼ができません。そのため補強を行います。配筋を行い、既存の基礎に新たな基礎を沿うように打設し補強します。布基礎またはベタ基礎を検討中です。

  • 柱外壁の構造補強工事

地震に耐えうる剛性を保つため、構造用合板にて外壁の構造補強を行います。また、現状の柱は会堂部分に杉4寸角をダブルに入れていますが、さらに剛性を高めるために鉄骨柱を立てて補強を検討します。特に塔屋部分は地震力に弱くここには鉄骨を入れ構造補強を行います。

  • 構造補強にともなう仕上などの変更工事

室内床、壁は杭、基礎などの補強工事にともない、仕上げの変更が必要となります。外壁は、構造補強にともない新たな仕上げを施します。色彩は当初の外壁の色が残っていることから復原します。また、会堂の床は既存または新規フローリングにて張り直します。

  • 窓まわりの損傷修理

軒の出の少ないヴォーリス設計の建物では、それが原因で窓廻りが傷んでいます。窓廻りから壁内に、水が浸入している箇所もあると思われます。三方枠、水切りなど損傷の激しい木部の修理を行います。また一部の鉄製窓の腐朽が激しいものもあり、これらは取り替える予定です。痛みのひどい建具は修理、取り替えを行います。すべての窓を調整し、開閉に支障がないように修理を行います。

  • その他の工事

予算に限りがありますが、現在の便所は使用しやすく改修を行いたいと考えています。どこまで可能か検討中の事項です。

竣工 平成24年竣工(登録有形文化財建造物)
所在地 千葉県市川市
業務 設計、工事監理

 

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